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用語集

 認知症高齢者の存在が精神科デイケア内で生み出す効果

藤松久恵(OT)
片山成仁(Dr)
高橋寿直(Dr)

 昨今、デイケアは多様化し、デイケアの機能分化、専門分化が主流になってきています。これは、年代や疾患により対象者を絞り、フロアやプログラムを分けることによってより治療の効果を高めるというメリットがあります。ただ、専門分化されたデイケアは、このようなメリットのある一方で、実社会とは違う側面もあります。というのは、実社会には年代、性質、キャラクターなど様々な人が混在しているということです。そこで、より実社会に近い環境を作るには混在型のデイケアも必要なのではないかと考えました。そうして、当デイケアでは、統合失調症を中心とする比較的若い集団に、認知症高齢者を混在させるという混在型デイケアを試みました。
 ここで、なぜ認知症高齢者かといいますと、統合失調症患者らにとって見た目に分かりやすく自分よりも「弱者」だと認識できる存在のほうが、保護する立場になれて自信の向上につながりやすいのではないかと考えたためです。実社会にはいろいろなキャラクターがいるとはいえ、人格障害やアルコール依存症では侵襲的すぎて、統合失調症患者らにとっては、振り回され自信を失うことが多いのは皆さんもご存じの通りだと思います。
 それでは、対象となっている当病院のデイケアについて、もう少し詳しくご説明します。年齢別では30代が最も多く、20代~40代で約半数を占めています。疾患は、統合失調症が約6割で、残りは気分障害、発達障害、強迫性障害などです。急性期という病院の特徴に合わせて、まだ病歴も浅く早期デイケア卒業可能、社会復帰可能なメンバーが多くなっています。認知症高齢者は登録数としては4名です。
 このように、1日平均30名の集団に1~2名の認知症高齢者が混在しているという状況が、若い世代のメンバーらに良い影響を与えていることが観察されたため、ご報告します。
 認知症高齢者のひとり、A氏について提示します。アルツハイマー型認知症の91歳女性、難聴あり、要介護度5、HDSR2点、デイケアでは車いす使用です。短期記憶障害著名で、不安強く、何度も何度も同じことを繰り返し訴え、疎通がとりにくい方です。
 このA氏との関わりが特に多いメンバー2人の変化をこちらにあげました。まずひとつは、自発性が高まったケースです。もともと自発語少なく、コミュニケーションは受動的でした。席がA氏と近かったこともあり徐々に自らA氏とかかわるようになり、お茶をくんであげる、声をかけるなどの積極的言動がみられるようになりました。それに伴い、他メンバーとの交流も増えていきました。
 こちらは、介護の仕事に興味を持ったケースです。精神症状は安定しており社会性も高いのですが、もともと斜頚がありそれがコンプレックスだという言動がよくみられます。自然とスタッフの手伝いで食事介助など行うようになり、介護ヘルパーの仕事に興味を持ち、現在就職活動しています。スタッフや他のメンバーから「Cさんが食べさせると食べるのね」「えらいわね」などと言われることが自信につながったと思われます。この2ケースとも、特別世話好きなわけでもなく、A氏に対してのみみられる言動です。
 他にもこの2ケースに限らず、このような特別な言動が見られました。全体的にA氏にとても注目し、気を配っている様子が感じ取れます。
メンバーの率直な思いも聞いてみました。
 以上のことから、認知症高齢者の存在が精神科デイケア内で生み出す効果というのは、これら3つにまとめることができます。コミュニケーションの促進、自信の向上、社会技能の向上です。これらは密接に関わりあっており、積極的に関わる・時にはスタッフのまねをしてみる→成功すれば自信につながる→もし失敗しても認知症なのでしょうがないかと失敗を受け入れやすいという流れがSSTさながらになっています。
 統合失調症の患者らは、どうしても保護される立場になることが多いわけですが、認知症高齢者を保護するという立場にたつ経験が、こういった自信の回復や積極的コミュニケーションの促進につながることがわかりました。つまり、専門分化するだけではなく、あえて混在の治療的環境を作ることにも意味があるのではないかと考えます。
 余談になりますが、認知症だけでなく、高齢メンバーと若い世代のメンバーの交流も盛んで、互いに教えあい助け合っている場面がよくみられます。専門分化型、混在型それぞれのメリットデメリットを認識し、デイケアの機能分化をしていくことが今後求められると思います。

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