ホーム > 用語集

用語集

 特異な業務体制と人事で精神科救急要請に全数対応

医療法人社団 成仁
成仁病院 渉外・保健部長
田中 直美

 医療法人社団成仁の歴史は、1994年に東京都足立区で精神科診療所を開院したことにはじまる。その後、認知症および精神科リハビリテーションを柱に地域医療に関わる施設・サービス等を開設してきた。2007年7月には、精神科急性期対応の成仁病院(114床)を開院した。東京都内における民間単科精神病院の開院は、38年ぶりとなる。
 こんな当法人では開設時より、他院にはない試みや特徴的なマネジメントを実施してきた。第1回目となる今回は、「救急要請への全数対応」「職員は自分の得意なことだけを行う」「法的に規定された業務以外、職種ごとに業務の垣根はない」という「成仁の3大不思議」と言われる3つの特徴について、成仁病院での取り組みを例にとりながら、紹介していきたいと思う。

■精神科救急要請への全数対応を実現

 成仁病院の大きい特徴といえるのが、精神科救急要請(1日5~8件)に全数対応していることである。こうした取り組みを行っている病院は非常に珍しいため、医療関係者からは「精神科単科病院なのになぜ?」「どうして全数対応ができるのか?」「何か秘密があるのではないか?」といった疑問をよく投げかけられる。
 この不思議を実現しているのは、対応をシステム化していることである。
 当院では救急要請されてくる患者さんの病状や背景を分類し、基本的な対応を取り決めた「トリアージ表」を作成、使用している。救急隊からの連絡や患者さんからの直接要請があった際には、このトリアージ表に記された対応基準どおりに行えば、新人やベテランはもちろん、職種を問わず「誰がやっても同じ結果」が得られるようになっている。
 つまり、トリアージ表に沿って業務を行っている限り、対応した本人が「なぜ入院させたのか」といった責任追及や罵倒を受けることはない。間違いがあれば、本人ではなくトリアージ表がおかしいからだ。
 もちろん、このトリアージ表だけで、判断がつけられない症例もある。その際には、より専門的な判断ができる職員が対応する。それでも難しいという局面が訪れてはじめて、医師が直接判断する流れになっている。とはいえ実際に、医師に救急患者の受け入れ可否の判断を仰ぐ必要があるケースは、全体の1割程度である。
 救急要請があるたびに、医師に相談するのは非効率で、とても全数対応など望めない。トリアージ表による判断システムを採用していることが、全数対応を実現している大きな要因である。

■業務は得意なことだけ怒られることもない

 2つ目の不思議と言えるのは、マネジメントにおける中間管理職が存在しないことである。当院には相談相手となる兄貴分的は存在するが、中間管理職はいない。私の役職は一応、渉外・保健部長となっているが、これは業務区分のひとつとして設定しているだけのことで、肩書きは給料を決める際の目安だけでしかない。
 なぜ、中間管理職を置いていないのか。当院では職員を「管理」する必要がないからである。
 当院の職員は、全員が自分の得意分野や好きな分野を中心に、業務に従事している。自分の得意とする分野を仕事とすることは誰でも楽しいものである。何もいわれなくても自ら能力を高めていくし、当然、職場で怒られるようなことや、いじめが起きるようなこもなくなる。職員は、それぞれ自律しているため、「管理」する必要はないのである。
 この「仕事を楽しく行う」ためには、得意や好きな分野の業務にあたらせるほか、本人が生来、持っている行動や考え方の傾向も含め、その人の特性に本当に合った業務に就かせることも重要なポイントである。
 これを実現するために、当院では、各部門とも業務をセカンダリー・プライマリー・ベーシック(テクニカル)の3つに分類し、業務は、このカテゴリーに合わせて構築している。カテゴリーへの振り分けは、職員一人ひとりの特性を鑑みたうえで行っている。
 得意な役割であり、かつ本人の特性にも合った業務に専念できるため、中間管理職が叱咤や管理する必要のない業務分担ができている。
 実は、救急要請に応えるトリアージも、この3つのカテゴリ-と無関係ではない。その関係やカテゴリーの内容については、次回以降に詳説する。

■効率的な運用をすべくライセンスの壁を排除

3つ目の不思議は、当院では医師による診療業務など、資格に規定された法的な業務独占分野以外は、できる人と好きな人を従事させていることである。
 病院という組織は、様々な資格所有者の集団である。しかし、資格者でなければしてはいけないという範囲は意外に狭い。であれば資格を必要としない業務に関しては、救急要請への対応と同様、誰が行っても良いわけである。
 当院では「相談室」を始めたとした特別な部署は設けていない。誰でも行えるようにしているからだ。実際には職種に関係なく、多くの職員が相談業務を担当している。いわば、「場所」への職員の配置をやめ、人に業務を配置するようにしているのだ。
 ライセンスの壁と場所をなくしたことで、セクショナリズムはなく、院内に限らず法人内の様々な機関が効率的に活動できるようになっている。
 以上のように、当病院の業務体制と人事体制は、特異的な印象を与える。救急隊からの要請に対応も含め、精神科急性期に対応しているため、業務もハードでかなり忙しい。「通常どおり」では、職員だけでなく病院組織も疲弊していくことが予想された。病院の目的を遂行し経営を安定されるためにも、このような一見奇妙な体制が必要だと考えている。
 救急要請全数、しかも急性期のみ対応する、という病院の方針を決めた時から、これまでの常識的な方法を根底から覆さない限り、実現は不可能と考えていた。もちろん、開院前は「多少の苦労は仕方ない」と腹をくくっていたが、3年経った現在、振り返ってみると苦労は全くなかったように思う。この「苦労しなかったこと」こそが、当法人の最大の不思議と言えるのかもしれない。
 次回以降、経営の中核をなす「適正別機能別業務分担」と「トリアージ」について、ご紹介させていただく予定だ。残り2回を読んでいただければ、当院七不思議がご理解いただけるだろう。

ページの先頭に戻る