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理事長挨拶

昭和62年東京大学医学部を卒業し、東京大学医学部付属病院精神医学教室、東京都立松沢病院における研修を経て、認知症の国際的権威で、当時、東京大学医学部付属病院病院長であった松下正明先生に師事(東京大学大学院医科学研究科にて精神医学専攻、平成5年修了、博士号取得)したのが、精神科在宅医療を志した私の出発点です。

平成6年、日本初の精神科専門の在宅医療機関『成仁医院』を開設し、重度認知症デイケアをはじめ、精神科専門の外来や往診、訪問看護ステーション等の事業をスタートさせました。当時は「介護保険」という言葉すらなかった時代です。したがって医療機関が行う老人デイケアは皆無であり、東京都では認可取得第1号となりました。

その後、介護保険の導入や高齢化といった社会環境の変化と、地域密着型の医療が受け入れられたことで、新たな医療の展開の必要を強く感じて参りました。地域との相談窓口となる在宅介護支援センター中川( 平成18年4月より 地域包括支援センター中川)を開設し、また認知症の高齢者が安心して入所できる施設の必要性を感じ、全国でも数箇所しかない認知症専門の介護老人保健施設ならびに特別養護老人ホームをそれぞれ設立しました。さらに、主たる対象は認知症の方々とはいえ、まだ十分に医療の手が差しのべられていない精神疾患をもつ在宅患者を対象とした精神科訪問介護事業( 平成12年から足立区、平成14年から葛飾区モデル事業として開始、現在に至る)もいち早くスタートさせて参りました。


これまで、日本初の精神科専門の在宅医療機関として、地域に根ざした医療を目指し、邁進してまいりました。そして、16年目を迎える今年、新たに病院を開設する運びとなりました。これにより、急性期から在宅まで、精神科の総合的な医療・福祉を患者様に提供する一連の流れが完成することとなります。

しかし、精神科専門の医療の先駆者として、さまざまな医療・福祉を展開させることができるようになった一方、私自身が真に目指している医療・福祉の目標に到達するには、まだまだ険しい道のりも続いております。開業からの15年間を振り返り、そして、今後の展開を考えると、開業したころの初心にもどり、気を引き締めなければと思う次第です。
たとえば、当法人のこれらの取り組みとは別に、診療報酬・介護報酬の改訂や医療制度改革など、大改革がおきております。在宅医療、ことに精神科在宅医療においては、従来どおりとは行かないところも出て参ります。また将来的には、精神科の医療領域はより介護保険の領域へシフトすることも予想されます。設備投資や人事管理、現場運営が厳しくなり、病院経営はいっそう厳しくなるものと思われます。在宅医療においては、1990年代の数年間は誘導のために優遇されてきましたが、現状を考えるとそれは過去の話で、予断を許さない状況になったと思われます。

一方、新たな胎動も現れてきました。「新精神保健福祉総合計画」が始まり、役所や保健所などの公的機関、地域の協力が不可欠とはいえ、入院から在宅への動きが加速する動きがあります。
たとえば、これまでの経験でいえば、記銘力障害や見当識障害が主な症状の方であれば、精神科診療は必ずしも必要とまではいえませんが、幻覚・妄想・精神運動興奮などの精神症状をもつ方や介護抵抗のある方に関しては薬物治療も含め、精神科の医療機関が主治医になることによって症状の安定・改善が図れるものと確信しております。

また私の感覚的な話で恐縮ですが、介護保険の範疇である要介護老人のうち、4分の1の方が精神科医療を必要とし、その内、10分の1の方が認知症専門の精神科医療機関の診療を必要ではないかと思います。そうした場合、現時点の患者数は氷山の一角を診ているに過ぎず、水面下にはさらに多くの患者が存在すると考えています。地域医療・福祉における精神科総合医療機関の重要性は、今後ますます増大すると言ってよいでしょう。
しかし残念なことに、精神科治療の必要性、重要性が叫ばれながらも精神科専門の診療所の数は、現在、一般診療所が全国で10万弱に急増し在宅医療が脚光を浴びるなか、わずか1.5%程度しかありません。さらに、私共のような精神科専門の総合医療機関となりますと、歴史も浅いため、その数はさらに希少となります。私共が標榜し続ける新たな医療・福祉の必要性が今後ますます高まりつつあります。

私は常々、日本の医療の将来を担う医療人に、私共の取り組みを知っていただきたいと切望するとともに、これまで私共が積み重ねてきた経験や手法をもとにした新しい精神科医療を多くの方々と共に展開したいと考えております。開業から15年が経ちましたが、よりよい医療と福祉の創造に挑戦し続けるという強い信念はまったく褪せておりません。地域の人々の信頼に努め、職員の確保、医療技術・管理技術の向上を念頭に置きながら、常に冷静に状況分析をして、つぎなる新たな目標である事業の創造に向けて日々邁進する次第であります。

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