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用語集

職員の長所を活かす適正別機能別業務分担を導入

医療法人社団 成仁
成仁病院
渉外・保健部長
田中直美

■職員の能力を引き出す長所を生かした業務分担

 前回は「救急要請全数対応」「得意なことを行う業務」「職種の壁がない」という「成仁の3大不思議」と評される特徴的なマネジメントについて紹介した。今回は「3大不思議」の実現を支えている当法人マネジメントの最大の特徴ともいえる「適正別機能別業務分担」を中心に紹介していきたいと思う。
 「看護師は全員が、すべての看護業務を行う」―。当たり前のこととして一般に行われている業務体制であるが、よくよく考えてみるとこれはマンパワーを効率的に活用しているとは言い難い。なぜなら、看護師一人ひとり性格や得手不得手とする業務は違うからだ。当院では、「○○ができない」ではなく「○○ができる」という考え方を基本に職員を評価しており、それぞれが最大限に長所を活かした業務に従事できる体制を整えている。これが「職員の長所を活かした業務を行う」、職員の適正別機能別業務分担である。言い換えれば「職員は自分の長所を活かした業務に専念できる」ということである。当院では「Aさんは○○ができない」ではなく、「Aさんは○○ができる」という考えから、一人ひとりの長所を把握したうえで、職員は「適正別機能別業務分担」に合わせて分類した業務や勤務に就き、長所を最大限に発揮できる体制をつくった。

■職員の長所にあわせて業務と役割を3つに分類

 当院では、職員の持つ長所と特徴に合わせて、役割と業務を「プライマリー」「ベーシック(テクニカル)」「セカンダリー」の3つに分類している。カテゴリーは、それぞれが持つライセンスに関係なく、職員の特性と業務の持つ特徴を指標に分けている。職員は自分の所属するカテゴリーと同じカテゴリーの業務を行う。自分の属するカテゴリー以外の業務は行わないので、仕事のチャンネルの切り換えは少ない。得意業務に専念できるので、当然、混乱や争い、いじめなどが起こりにくい状況をつくりだせるメリットもある。
 まず、「プライマリー業務」は、個別性を重視し、仕事の都度に対応を変える必要のある業務を指す。たとえば看護であれば、患者さんの治療や療養などのケアが主たる業務になる。受付事務の場合は、初診を希望する患者さんの診察日や担当医を決めるなど、マネジメントがメーンの仕事となる。
 このプライマリー業務に向いているのは、業務の効率性より対象の個別性を重視するような仕事が好きな人である。よく気がつき、優しいといわれる人が向いている業務と言えるだろう。
 「ベーシック業務」は、個別性よりも正確性や効率性を追求する傾向にある人が担当する。したがって、病棟看護師であれば、手技中心の業務になる。しかし、俗にいう"処置番看護師"と大きく違っているのは「単に処置をこなせばいい」というのではなく、手技一つひとつをより正確かつ効率的にし、また、一見個別性のある処置でも、一般化できるようにしなければならない。当院では、多くのm-ECT(修正型電気痙攣療法)を施行できているのは、このベーシック職員のおかげである。
 ベーシックに向いているのは、一言でいうと「オタクタイプ」である。腕に自信があるが、変化に弱い。一つのことを突き詰めていく仕事を好む人が当てはまるだろう。
 最後に「セカンダリー業務」は、プライマリーとベーシックのどちらにも属さない突発的な出来事や、日常的ではない事象に対応することを主業務としている。性格的には、地道なことは嫌い、障害が大きいほど燃えるタイプが向いている。このタイプの多くの場合、集団での行動があまり得意ではないが、セカンダリー業務に集団で行うことがないので、適しているといえる。

■カテゴリーごとに異なる。判断する事象や業務の範囲

 当院では日々の業務上の判断もこのカテゴリーごとに事象・範囲を決めている。個別性が無視できるものはベーシックの職員、個別性を重視しなければならない事象はプライマリーの職員が判断を下している。セカンダリーはさまざまな要因が複合されたイレギュラー事象の判断だけに専念している。つまり、カテゴリーに属する職員は自身の業務の種類、判断すべき範囲が自動的にわかるため、他のカテゴリーの判断はしなくてよいのだ。
 職員・業務内容・判断が的確に分類されているからこそ、職員自身の研鑽、ライセンスの壁を越えた業務、ひいては救急要請全数対応などが可能だと考えている。
 この適正別機能別業務分担に則って職員が業務を遂行すれば、職員を管理する場面はなくなる。そのため、いわゆる中間管理職といわれる層は不要となるのだ。各カテゴリーに気軽に相談できる兄貴的な存在がいれば十分なため、組織体は図のイメージのようになる。
 ベーシック、プライマリー、セカンダリーの位置づけをヨコ一線の関係としていることも大きな特徴といえる。一般には、ある程度の経験を積んでベーシック業務をこなせるようになった人材が、プライマリー業務に移るといったケースが多いが、これではプライマリーとベーシックの間にヒエラルキーが生じることになる。しかし、当院では、入職年数や経験に関係なく適性を判断して分類しているため、タテのヒエラルキーは存在しない。
 適正別機能別業務分担の導入は難しそうに思われるが、困難はほとんどなかった。職員が自らの所属するカテゴリーを認識するにつれて、業務もより一層、整理されてきた。業務が整理されれば、判断事象もはっきりしてくる。そこから、第1回で述べた救急時に役立つトリアージ表も自然とできてきた。
 次回は、カテゴリーわけのための人事評価法や、実際にカテゴリー分けがどのよう活かされているか、救急要請に対応するためのトリアージ方法など報告させていただきたい。

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